ふと顔を見上げると、爺さんと河野友美が話を始めていた。ちょうど3人組も食べ終わった頃で、その中でリーダ格の山下幸雄が、
「おいしかったぁ。ご馳走さま。篠塚さん、いくら」
試作品だけど、一応値段を決めないといけない。少し考えてみたが、値段を決める適当な理由が見つからない。頭に浮かんだ、妥当な金額に決めた。
「えーと。今日は全部で2000円貰おうか。ところで今日の料理はどう思う」
千円札を2枚取り出しながら、その山下は、答えてくれた。
「美味しかったけど、どうかな、こんなラーメン屋のカウンターで食べる料理ではない事は確かだね。どちらかというと、居酒屋ですね。そんな雰囲気」
「そうやっぱりそう思うか。そうだよな」
そう言いながらお金を受けとって、
「ありがとう。また月曜日ね。美味しいもの考えて、待ってるから」
3人組が出て行ったのを見届けた後、店仕舞を続けながら、河野さんに話しかけた。
「ところで河野さんこれからどうするつもりなんですか。今までの話の様子では今晩泊まる所が無いように思うのですが」
「そうですね。………どないしましょうか。この辺りで安く泊まれるホテルか旅館は無いですかねぇ。2、3日泊まれる所が在れば、助かるんですが」
「そうだねぇ。この辺りだと、1泊で7、8千円は取ると思いますが」
「………」
「あんたの裏の部屋、貸してあげなさい」
黙り込む河野さんの隣から、爺さんがそう話し出した。爺さんは、私が裏に借りている部屋の事を言い出したのだ。別に秘密にしている訳では無いのだが、別に宣伝してまで使用してもらうつもりはない。ただ単にこの店の裏側に、もう2部屋借りているだけである。この店を出店する時に大家からの要望で一階全部を一括借りで借りたのである。私には、考える事が有ったからだ。
「………別に泊まるのは構いませんが。その前に河野さん。親とか、兄弟とかは広島には居られないのでしょうか」
「両親はいません。それに私は一人っ子でしたから」
「でも広島に帰って来たという事は、誰か当てが有って帰って来た訳でしょう。それだったら誰か友人とか居るんじゃないのですか」
「当てにしていた友人はいました。でも今日一日探しても誰にも会えなくて、昔バイトをしていたレストランは、もう倒産しているらしく無くて」
「それでは誰とも約束をせずに、広島に帰ってきた訳ですか」
「はい」
「それでは今日一泊したら大阪にまた行く訳だ」
「いえ、もう大阪には帰りません」
「えっ、それってどういう事なの。だんなが大阪にいるんじゃないの」
「…………………」
少し泣き顔になっていた。それを察知したのか爺さんが話しかけてきた。
「良いじゃないか、篠塚。誰にもそれぞれ事情が有るもんじゃ。ごちゃごちゃいわずに案内してやれや」
「そうじゃねぇ、それじゃ今後の事は明日考えるとして案内しますよ」
カウンターの下に掛けて有る鍵を取り、河野さんを手招きして渡した。それから店の裏口を開けてから、カウンターの中に招き入れた。
「布団は奥の部屋の押入れに有りますから。シーツは自分で掛ける事になっていますからご自分で掛けて下さい。部屋に有るものは全部自由に使用しても構いません。大抵のものはそろっていますから。明かりは入って直ぐ左手の所です。上から部屋、トイレ、お風呂です。それから暖房器具は、奥にエヤコンが有りますから。リモコンが多分テーブルの上辺りに、置いて有るはずです」