小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No14】

小説著者 【 末森拓夢 】


 しゃべりながら店の裏側の通路の電気を点け、通路を私が前になって歩き、奥側の部屋を案内した。隣の建物との隙間から、チラチラと雪が舞い降りていた。
「店は閉めますので出入りはこちら側からして下さいね。こちら側だと見ての通りすぐ通りに出られますから」

 建物の裏側は少し空き地になっている。路地に面していて、自由に出入りが出来た。私の車が止めてあり、また上の住人たちの駐輪場でもあった。私の車を入れると、その後ろに詰めて、2台位は車が止められた。が普段から、他の住人は誰も車を止めていなかった。左右は高い建物になっていてどちらかと言うと左側の方が低かった。北から吹き付ける雪が、右側の建物でさえぎられ、その空き地に落ちていた。私の車の上には、すでに10センチ以上積もっていた。そして誰もまだ歩いていないのか、足跡を見つける事は出来なかった。自分の車に近寄り、振り返るように2…3階をみると、2部屋だけ明かりがついていなかった。ひとつは先ほどの山下幸雄の部屋で、もうひとつは知らなかった。彼は多分まだコンビニにいるのだろう。降りしきる雪を眺めながら、
「夫の所には戻らない」河野友美が言った言葉が心に浮かんできた。
「確か芸能人に、似た子がいたよな。十人ぐらいの女の子が集まって、何とか言うグループを作っていたんだがなぁ。その中のひとりなんだけど、何て言う名前だったかな、あの子、あの子、あの子…………」

 私の心の中では、その子の顔が浮かんで来るのだが、どうしても、名前は浮かんでこなかった。そして少しワクワクしている自分の心と、にやけているだろう自分の顔に、気が付き、寒さと、爺さんのことを思い出した。自分の店のドアを開けた時、ガチャという音で振り向くと、河野友美さんが顔を出した。
「本当に、今日はいろいろと有難う御座います。お言葉に甘えてしばらく部屋をお借りします」
「ええ、遠慮しなくていいですよ。おやすみ」
「おやすみなさい」

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