小説【ラーメン屋旅館 ――女心――NO15】

小説著者 【 末森拓夢 】



「あんたぁ。なんで、ここにつったっとるんねぇ」

 夜の帳が下りた広島の飲み屋街、流川で、私が、タバコを買おうと自動販売機の前で、小銭を探していた時、その建物の奥から、一人の女性が走って来てきた。私は当然その女性は、私を視線の中に入れていると思っていたら、ぶつかった。その女性は、その拍子に、後ろ側に向かってこけた。つまりしりもちをついた訳だ。そして彼女は、強烈な広島弁で、いかにも私が悪いかのように、どなってきた。

 こんな時、怒っている女性に対して、こちらが本気で相手にしても無駄なことだから、
「ああ。ごめん」

 と、だけ言えば良かったのだが、その女性の顔を見たら私好みの可愛い顔をしていた。だから、私はつい、違う単語で声を掛けてしまった。
「あなた、ネコガオだね」

 当然相手はさらに怒ってきた。
「あんたぁーねぇ。女性に言うような言葉では無いでしょうが、ネコガオなんて」

 私が差し出す手を、彼女は撥ね退け、自分の力で起き上がると、自分の服のお尻あたりに砂が付いていないか、を気にして、両手で叩いていた。彼女は、店の制服か、自前か、もしくは店からの借り物であるのか、どれなのかは知らなかったが、人目で水商売関係と判る服装をしていた。

 紐を編んで作った感じの、ちょっと低めの黒色のハイヒールを履き、ストッキングは編みタイプの物をしていた。が、それよりも気になったのがスカートだ。黒のタイトなスカートには、下側に10センチぐらいフリルが付いていて、前面に深いスリットが入っていた。そのスリットの隙間から太ももが見えていて、何かの拍子に直ぐに下着が見えそうな気がした。そこら辺が飲み屋に勤める女性特有の色気を出そうとしている所だろう。上半身は、胸元のボタンをふたつはずした黒のシャツを着て、その上から赤い色の上着を着ていた。その上着の胸元にはフリルが何重にも付いていて、さらにその上に、黒のジャンパーを羽織っていた。

 その女性が今の私の彼女になっていた。今から一年前の話であった。水商売を、自らの生活の糧としていたその女性は、水沢あき、と名乗ってくれた。

 彼女の店は、スナックではなく、どちらかというと、クラブに近かった。料金はそれほどでもなく、飲み放題で、90分が6000円だった。

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