小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No16】

小説著者 【 末森拓夢 】


 その店に入ると、先ず右側に鏡があった。私の感ではそれはマジックミラーになっている。そして来店があると中に居る人がお客を見て、誰が来たのか判断して、その担当の女の子を呼ぶ仕掛けだろう。だからその裏側には、更衣室、兼休憩所、兼会計場を造ってある。そして通路に対して反対側、つまり左側を洗面所にしていた。その洗面所は、狭い店にしてはスペースをかなり広く取ったもので、ゆったりした気持ちにされてくれていた。そのまま奥に進むと右側にカウンターがあり、左側が、テーブル席であった。そのカウンターの奥にもテーブルが有るのだが、カウンター席の人と、そこに座る人の目線が合わぬように、丸い木の棒で作った格子のつい立があった。

 客はソファーに座り、女の子が小さなテーブルの、向こう側に座る形態を採用していたが、女の子の中には、お客の隣に座って、相手をする子も何人かはいた。カウンター席は、料金が少し安いらしいのだが、私はそちらには座った事が無い。せっかく料金を払うのだから、少しでも女性と話しやすいほうが良かった。それとたいした料金の差ではない。ゆっくりとした時間が欲しかった。店内には男性の従業員が居て、女の子が合図をすると、すばやくテーブルの所まで来て、片ひざをついて用件を聞いていた。彼の仕事は他にもあって、例のマジックミラーの部屋の中で見張る役と、お客が女の子にいたずらをしないように目を光らせていた。店内の装飾は、木目調が、さりげなく使ってあって、かなりシックな造りであった。そんな中で、ライトの遣い方が上手かった。お客の中には、飲み放題が嫌で、ボトルをキープする人がいた。その棚が、ガラスではなくてステンドグラスの扉がしてあり、そこだけが、微かに内側から光り、その洒落た演出が心憎かった。ただ室内の明かりだけは、少し暗く、それが私から見れば気になる所ではあった。その明るさの中で、一週間ぶりに見る彼女は、目じりのしわと、化粧が少し気になった。こうしてみると結構年を取っているように感じたが、私はすでに、40を超えている。だから私には、言えない事ではあった。

 店内は外の雪からは、想像できないくらい混雑していて、
「業種が変われば、また混雑する時間も変わるものだ」と思い、彼女に尋ねた。
「雪が降ったり、雨が降ったりすると、家に帰るのが面倒になり、こうして時間がつぶせる所に来る人達が存在する」

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