小説-ラーメン屋旅館|誰かの視線を感じて

 ふと誰かの視線を感じて頭を上げる。探すまでもなく、かがみこんで手を振る、あきの姿が、入り口のガラスを通して見えた。時計を見るとまだ十時前だ、こんな時間に起きてるなんて珍しいと思う。普段なら寝ている時間のはずだ。

 カウンターをくぐって入り口に近づき、内側の鍵を回す。するとあきは、ガラッガラッと安物の音を立てながら引き戸を開ける。このとき、あきの後ろに見知らぬ女性がもうひとり、雨を気にしながら立っていることに気付いた。一目で分かる、あきと同じ職業だ。

 傘を畳みながら左手に持っていたビニール袋を私に押し付け、口を開くあき。
「おはよう、冨雄。まじめに仕込みをしてる?」
 いちいち人に言われなくても、これが私の人生だから、真剣なのは間違いない。それよりも気になるのは連れてきた女性だ。なぜに私の店に連れてくる必要がある。

「後ろにいる人、誰」
「あっと、新人さん。恵子と言うの」
 ふーん、と適当な相槌を返しながら、カウンターをくぐって厨房に戻る。手渡されたビニール袋を、流しの上に置き、包丁の跡が残るまな板を横にする。あきは振り返って、恵子と呼んだ女性に向かって、手招きをしてから私の目の前に座った。恵子は小さな会釈をしながら店内に入ると、私の視線を気にしながら、あきの右側に座った。

「そうそう、冨雄。それ、貸して」
 そう言いながらあきは立ち上がり、細い腕を伸ばして、私が置いたビニール袋を手にする。無茶な姿勢でビニール袋を覗くと、中からハンバーガーをふたつと紙パックの牛乳、これもふたつほど取り出す。残されたビニール袋は力なくしぼんでいき、微かな重量感だけを残した。残されたものはたぶん、牛乳とハンバーガーがひとつずつだろう。

 あきは取り出したハンバーガーと牛乳を、しなやかな指でふた組に別けてからひと組を恵子の前におき、目の前に残ったハンバーガーの包みをガサガサと開ける。
「冨雄もちゃんと朝ごはん取らないと駄目よ。子供の朝ごはんは用意するくせに、自分の食事はいつも後回しなんだから」

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