小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No21】

小説著者 【 末森拓夢 】


 頭の中で、叔父と叔母の事が頭に浮かんで来た。両親がいなくなってから世話になっていた人達だ。どんな言い訳を言おうか、それとも今晩はどこかで寝てから、明日の朝一番で電話しようか、それに横川辺りに行けば、時間がつぶせ、座る事が出来る映画館とか、有る筈と考えていた。

 電車通りを越えた辺りだった。先ほどのラーメン屋の主人が空を見上げ天気を気にしていた。やはり商売人であると思ったが、先にそんな事より、子どもの方が気になり話しかけた。かなり疲れている様子であったが、どうすることも出来なかった。

 そのラーメン屋の主人が私の事を見ている事に、気が付いてはいた。少し気になってその人を見ると、直ぐに話しかけてきた。まるでナンパの時に話しかけてくる古いギャグであった。やさしそうな感じがして、店内を覗くともう人は居ない様子である。それに老人も話しかけて来て、取り敢えず座る所が欲しかった私は、店内に入る事にした。

 そこまでを想い出すうちに、シーツは全部掛け終えていた。まだ寝ていないわが子を抱き寄せ足を確認した。凍傷にはなっていないようだが、まだ冷たく、そのまま布団に子供を抱きながら入り、子供の足先を手で暖めた。だが、ちょっと気になりトイレに行って来て、鍋の火を消して、直ぐにまた、自分の子供を抱きしめて足を暖めた。布団に入ると最初冷たかったが、子供の体温で直ぐに眠たくなり、なぜか昔のことが浮かんで来ていた。それは、母が居なくなった日の事であった。それは夢なのか、それとも思い出しているのか、自分ではもう判らなくなっていた。

 そのときの母はいつもより優しかった。ちょうど冬が終わった頃で4月からは小学生になるはずである、そのお祝いだと思っていた。普段入った事もない店、につれて行かれ、普段は言ってもらう事のない、
「好きなものを注文しても良いよ」

 と母は言ってくれた。不思議にも思ったが、嬉しさの方が上だった。以前から食べてみたかったのは、上に大きな海老が二匹も乗った天丼である。母はそれを二つ注文した。食べ終わってから驚くことがあった。

 何と好きなデザートを注文しても良いと言ってくれたのだ。私はアイスクリームとフルーツが一杯乗ったものを頼んだ。それはひとつしか頼まなかったが、直ぐに訳が分かった。私は全部を食べられなかったのだ。残ったアイスとフルーツを、母が笑いながら食べていた。笑いすぎたのか少し涙を流していた。その日は親戚の家に泊まった。母は私と一緒に寝てくれた。そのとき母は、私の手を握ってくれ、
「こうしたらね。友美はね直ぐ眠たくなるよ。お母さんの手品だよ」

 と言われ、それから少し昔話をしてくれたようだった。が覚えては居ない。朝起きると母は居なかった。代わりに短い手紙が私の枕もとに置いてあり、私にも読めるように、ひらがなで書いてあった。
「友美へ、おかあさんは、ちょっとでかけるから、まっていてください。それとあなたのまくらもとにあるにんぎょうは、プレゼントです。だいじにしてください。それと、じこのないように、ランドセルにおまもりを、つけておきます。なくさないように。それからにんぎょうは、あらってはいけません。みずで、あなたのしあわせが、ながれていきますから」

 私は、母は夜には帰ってくると思っていた。だが夜になっても帰って来なかった。

 だが私は、誰にも尋ねる事が出来なかった。父の時と同じであった。父と同じようにもしも死んでいたら。それが怖くてたずねる事が出来なかった。

 そこまで彼女は想いだした、いや夢で有るのかも。だが今は深い眠りの中であった。

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