表に出てから携帯を爺さんに掛け、12時頃と約束して携帯を切った。あきは、それを見ていて、少し安心したのか私の言う事に従ってくれ、私がタクシーを止めるとさっと乗込んでくれた。そのタクシーの中であきが、私に向かって大袈裟に手を振ってくる。いつもの彼女の癖だが、私は少し恥ずかしさがあって、小さく手を振る。直ぐに走り出したそのタクシーを、目で追いながら私はあきの事を考えていた。
どちらかというと彼女は、いっしょに居て楽しいタイプである。家庭に入るような子では無い。いつも無邪気に遊んでいるし、街の流行の店も多く知っている。時折私に、自分の服装を見せに来て、自分のセンスの良さを私に見せつける。そんなあきは、私から見ると、綺麗で、可愛く、気が付く女性で、そこらあたりは、平均的な女性をかなり超えていると思う。それは彼女を友人に紹介すると直ぐに分かる事である。誰もが私と同じ意見を言ってくれる。ウソ半分で聞いても、かなりの褒めようであった。
そのあきは、私との結婚を願っているようだ。そんな様子が時折見える事があった。だが私はあきと、すぐに一緒になるつもりは無かった。結婚などはこりごりであったし、前の妻と別れて2年しか経っていないから、という理由もあった。
そんな事を考える私は、歩道の上で次に来るタクシーを待っていた。2分間も掛からずに次ぎのタクシーが来て、私は手を軽く上げそれを止め、そして乗り込んだ。
そのとき思い出した。彼女にタクシー代を渡す事を忘れていた。別にそんなお金の関係ではないが、家まで送るのがパートナーの役割だと思う。その代わりにタクシーを使用する訳だから、ちょっと気になった。携帯をかけるほどでもない気がするので、メールでタクシー代のことを詫びた。
12時5分前に電話が鳴った。今度は爺さんである。
「約束したら、5分前には来るのが、大人の常識で有る。何をしておる」
「爺さん、だから言ったでしょ12時頃になるよ、って」
と私は、
「頃」の所を強調して返事した。
「今どこじゃ、どの辺におる」
「ああっ、もう少しで着くから、あせんないで。今、紙屋町あたりです」
「おっ、そうか待っているど。早く来なさい」
「はいはい」