小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No26】

小説著者 【 末森拓夢 】


 この辺りの十日市は、ひとしきり何でも揃っている。今入った店も有るし、ラーメン屋も有る。総菜屋、駄菓子屋の卸をする業者、居酒屋、コンビニ、中には鋼管を売っている店や、その鋼管のねじを切る所まであり、昔ながらの街だ。

 その店は一見して、普通の時代遅れの喫茶店であった。が、奥は結構広く、座敷まであった。爺さんが小さい子供が居る事を配慮してくれたのであった。奥の、あまり人目に付かないような座敷を、爺さんは指定してあがった。
「どうせ言っても遠慮するじゃろうから、私がみんなのオーダーをする」

 と言って爺さんは勝手に注文を始めた。それぞれの顔を見ながら、
「この子はそうじゃな、まだ小さいから、もちが入ってないぜんざいで、あなたは大人じゃが、女性だからフルーツパフェ。この男はどうせ味など分からんから、コーヒーでいいや。わしゃ、この子に入れなかった、もちを入れてぜんざいの大盛で」

 確かにそれぞれの事を考えている。だが私の事を味音痴とは、それでは
「何時も私の店に来るのはなぜ」と思いたくなった。

 爺さんはやっぱり爺さんであった。この店でもわがままを言っている。ウエイトレスが行きかけたとき、
「ああっ、フルーツは大盛にしてくれよ」

 程なくしてオーダーしたものがやってきた。それを見ていた私は少し感心した。かなり親切な店である。それぞれの注文を、出来上がる時間を計算して、一緒に持って来た。今のファミレスでは絶対無い、家族的なサービスであった。

 そんな事を感じていたとき、友美さんが少し涙顔になっているのに気が付いた。何か昔の事を思い出したのだろうが、ここでそれを聞き出すのは軽はずみかな、と思い、気が付かぬ顔をしていた。が、ついにその涙が、ほほを伝い始めた。じいさんが、
「どうしたのじゃ嬉しくて泣くのか、悲しくて泣くのか、どっちじゃ」

 といつもとは違い、やさしく語り掛けた。

 河野友美は、唐突に、昨日見た夢の事を語り始めた。
「そうか。そんな事があったのか」

 先ほど味方になったのが良かったのか、いつの間にか爺さんのひざに乗っていた子供は、心配そうに母親の顔をのぞきこんでいる。爺さんが続けた。
「良かったら全部話してくれないかな」

 父が死んでからは、父方の兄の、叔父の妻からと、父の弟の、二人から、母が父の死の事や会社の倒産の事で、かなりきつく責められたらしく、母は一緒には住めなくなったらしい。特に兄の方の、叔父の妻にかなりきつく言われたみたいだった。それで彼女は、父の兄の家庭で育てられる事になった。そこでは、叔父の奥さんに、かなりいじめられたが、叔父はかなり優しかった事も話してくれた。だが父が死んでから7年ぐらい経った頃、その叔父が、会社からリストアされて、その辺りから、かなりゆがんだ人生を送る事になったらしい。高校は自分でアルバイトをして行った。高校を出てからは母が大阪に居ると噂を聞いていたので、大阪を就職先に選んだ。

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