小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No29】

小説著者 【 末森拓夢 】


 といって携帯を切った。しまった。場所を言うのを忘れていた。もう一度携帯して場所を説明し、
「どうせお金は持っていないだろうから着いたら店に入って来い。それから何か判らない事があれば携帯しろ」

 と話してから切った。私の子供は、驚くほど早くこの店に来た。流石に食べる事になると私の子供は違うなと妙に感心してしまった。爺さんが、
「今日は鍋がいいじゃろ」

 と勝手にこの店の会計を済ましていた。私と二人きりの時は、最後の一円まで細かく言うくせに、女性がいたら直ぐに格好をつけたがる、何時もの事であった。今度も爺さんの案内で料理屋に行った。

 私の店からは遠くなっていく方向だ。料理屋についてから、爺さんと河野さんは、明日の朝10時に会う約束をしていた。

 小一時間ほどすると河野さんは、子供を連れて挨拶をして帰って行った。
「先輩の事が気になる」

 と言っていたからである。爺さんが
「先輩がいれば、彼女は多分、その先輩の家に暮らすことになるじゃろうな」
「まあ、そう言う事になりますよね。その方が河野さんには幸せな事ですから」

 30分位してから私は、自分の子供を連れて、自分の店に行ってみた。だがラーメン屋の裏の部屋には、明かりが点いていなかった。
「どうしたんね。寂しそうじゃね」

 子供がそう私の顔を覗き込みながら言ってくれた。子供でも少しは大人の気持ちが分かるのかと感じた。

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