客が居なくなった店にいきなりギターの音が響いた。かなり昔に流行った何かのドラマのテーマソングであった。その男は一人で盛り上がっていた。もともと無理な話で電源の入ってないエレキギターとへたくそな歌声だけでは曲になっていない。
「おい。いい加減にしてくれよな。下手な歌で」
「いいじゃん、別に。誰にも迷惑を掛けていないし、誰も居ないし」
「いや、お前の下手な歌を聞くだけで、私にとっては迷惑なんだ」
まったく持って自分勝手であった。誰も、
「私のギターをひいて良い」とは言っていない。それにここは私の店で、ラーメンを食べて頂く所であり、何処かの安物のライブハウスのステージでは無い。だが、言うのはやめた。無駄である。時間の無駄。自分自身のエネルギーが無駄に減るだけである。私は諦めていた。
そもそも人間という動物は自分勝手である。私が妻と別れたのもそれが一番の原因であろう。私の中ではいつも人生は挑戦で、前に行く事こそ正しい。と思う。だが女性は、何時も同じ生き方をして、何時も平和な生活である事。それを望むように思えて成らない。どちらが正しい考え方か、私には判断できないが、それぞれの意見はぶつかり合い主張する。そして男と女は別れる。もっとも、一番自分勝手なのは、私であるが。今、私の店で騒いでいる男は、昨日の朝、いきなり電話してきた私の友人、大友清である。本職は探偵。若い時
「松田勇作」が出ていたドラマ
「探偵物語」を見てからというもの、
「俺は将来探偵になるんだ」と言い張ってきた。確かに今は探偵で有るが、生活が成り立ってなく彼女に生活費をせびっている。そんな彼では有るがギターはうまく、これも
「カッコいいから」と言って、若い時猛烈に練習していた事がある。
時間は昼の2時を過ぎた所だ。
「おい本題に移れよ」
「そうだ。忘れていた。車を貸せ」
「どうして」
「加計まで行くから」
「何だそれ、賭けって」
「馬鹿」
時々彼は訳が分からない事を言い出す。だがこれでも広大をトップクラスで卒業した男である。私には理解できない事が沢山有るのであろう。
そんな話をしている間に河野さんの事でちょっと気になる点があり彼に話した。この男私にとっては信用できる男であった。それに仕事柄何か良い案を見つけて教えてくれるかもしれない。そう思ったからだ。一昨日からの出来事を彼に簡単に話した。
話が終わらないうちに、河野さんが、爺さんと一緒に女性を連れてきた。
「こんにちは。こちらの方が、昨日お話をした先輩の、江藤香世子さんです」
「あっ、見つかったの、先輩。良かったじゃない」
私は自分の本心を閉ざすように話をした。
「そうなんですよ。先輩はちょうど九州に出張だったんですよ」
その先輩が、
「本当、私びっくりしちゃった。いきなり昨夜尋ねて来て、そして半べそ描きながら
「大阪から帰ってきた」って言い出して」