小説【ラーメン屋旅館 ――女心――】

小説著者 【 末森拓夢 】


 ハンバーガーを食べ終えたあきは、丁寧に包み紙を畳むと、食べ終えていない恵子の顔を見てから立ち上がり、トイレに向かった。その姿を見ていた恵子は急ぐ様子で残ったハンバーガーを口に入れ、ほとんど飲んでいなかった牛乳をズッズと音を立てながら空にする。

 思っていたよりも早くトイレから出たあきは、恵子が食べ終えていることを確認してから、残ったゴミをまとめ、またも無理な姿勢で、厨房内を覗き込み、ゴミ箱に向かって放り投げる。ゴミは、あきが狙った場所には届かず、私の足元でコロコロと転がる。
「ごめーん、冨雄。今晩待っているからね」

 あきは急かすように恵子を立たせると、そのままふたりで連れ立って店を後にした。私は足元に転がるゴミをひょいと拾ってからゴミ箱に入れた。目の下に広がる光景は、いつもとはちょっとだけ違い、あきが残していったビニール袋が見えた。

 朝から降っていた小雨はいつしか粒が大きくなり、店が暇になる昼過ぎにはみぞれ交じりとなった。そのみぞれ交じりの雨は、日の暮れる頃には白い物が目に付くようになり、この時期としては珍しく雪と呼べるまでになった。

 夜も九時を過ぎると店の前を通る人影はまばらになり、先ほどまで賑やかに繁盛していた店内は、ふたりきりの客だけになっていた。

 奥側のカウンターに座る男性は、月に二、三回来店する人物で、身長が百八十センチくらいの、盛り上がった筋肉が目立つ人だった。彼はいつものようにいすに深く腰を掛け、カウンターの上に置いてあるラーメンをすすっている。

 今日も紺のスーツに縦縞模様のワイシャツを着込んでいて、ネクタイは濃いベージュにうすいベージュの模様が混じったものだった。ネクタイの中央辺りに付けられたピンには真珠の玉がいやらしく輝いている。コートは着たままで、殆ど黒と言っても構わないぐらいの濃い茶色であった。私から見たら、ちょっと時代遅れの服装をしている。

――――To the subsequent page please.―――――
拓夢書房・ロゴ画像
小説 激烈伝のイメージ画像