小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No37】

小説著者 【 末森拓夢 】


 と片手を上げてしゃべった彼女はかなり気さくな人であった。江藤さんは河野さんに、
「あなた晩御飯は」
「いえ、まだですけど」
「あっ、そう。まだなの。それではここで食べて行きましょう。今日はちょっとなんか疲れた気がするから」
「篠塚さーん。今聞いた通り、ここで晩御飯食べるから。私と、大樹と、先輩に何か作って」

 ゲェ。また一人、わがままな人が増えそうだ。まぁ、しょうがないか。こういうことも有りだよな。その時突然裏口から、爺さんが、
「おーおった、おった、やっぱりな。買って来たぞ、蟹じゃ、蟹」
「おーぅ。すごいじゃんか、どうしんたんやこれ」
「みんなが居るじゃろうと思って、買って来たんじゃ。たまには良いじゃろ、蟹ラーメンなんて」

 そうだ。どうせやるなら、ただの鍋ラーメンじゃなくて、見栄えが良い蟹鍋ラーメンをしてみようか。少々高くても、売れる商品の方が商売的には良い事になる。爺さん結構良い事教えてくれるな。そう思いながら、早速作ってみた。作業の間、江藤さんが私と河野さんを見比べているようでかなり気になった。が、
「何かおかしい事でも有るのか」とは聞けないから、気が付かない振りをした。8時を回り、頭の上では、いつも聴いている、音楽番組が始まっていた。

 アナウンサーが、しきりに誰かの紹介をしている。最近、そんなことはあまり気にしなくなってきた。年をとった証拠かなと思おうと、何か自分の中にあせる気持ちが出てきた。そのまま料理の方を進め、何とか作り上げた料理を、あせる気持ちをおさえつつ、カウンターの上に二つ置いた。先日3人組に食べさせた時、真ん中の堀口が窮屈そうにしたのを覚えていたからだ。大樹には小さな小皿を出して置いた。

 何か気になる事が有るのか爺さんはまだテレビを見ている。そして画面を指差し、
「ほらこの子じゃ。見てみぃ。間違いない、この子じゃ」

 ふたりは、気になるのか、その画面を見て、
「その子がどうかしたの」

 と聞き返している。
「ほら、アンタじゃ、アンタ。良く似とるわ、あんたに」

 と江藤さんの事を指差した。私も鏡に映るテレビを見ると、確かに似ている。
「誰その子」

 と聞いたら、
「えー、知らないんですか。本当におじさんね」

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