小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No40】

著者 【 末森拓夢 】


 その時大変な事件が起こった。私は、自分の番が来るのを、訳が分からない事を考えながら、ひたすら待っていた。見るものは無いので、最初に声を掛けた女性の行員に、私の目は向いていた。なんとなくその女性が私の用件の相手を、してくれるはずと感じていたからだ。誰でも
「そうだ」

 と言うと、私は思うが、
「私がお客で、必要が有るから訪れて、その私の用件を誰かに話さないと、私の必要性は何時までも続くから、最初に目が合ったこの銀行の店員に声を掛けることした」

 そして
「普通の商店だと、声を掛けられた店員が、最初から最後まで面倒を見てくれるのが、当たり前である」と私は思う。
「何かの都合で、それが出来ない時、例えば本人の知識だけでは対応が出来ない時など、にその事を断ってから、然るべく人物と、交代する」 のが当たり前だと思う。だから私はその女性銀行員がわたしの相手をするはずだから、彼女を見ていることになる。別に私がその女性銀行員の事を、
「綺麗だとか、もしくはその人にほれたとか、一度位はその人に添い寝をしてもらいたい」

 とかを考えていた訳ではない。だがその女性は何を思ったのか、私の視線を気にするようになった。暇だし、面白いから暫く、そのままその女性を観察していた。

 ひとりの女性、50代ぐらいの歳であろうその女性が、その銀行員に声を掛けた。私はその人にも同じように、
「カード発券機でカードを受け取り下さい」

 と言うのが当たり前だろうと思った。だがその銀行員はその女性の話を聞き始め、何と言う事だろうか、自分の席を離れその女性の案内を始めた。
「いくらなんでもそれは、無いだろう」

 その女性銀行員は、今から私がキープをする番、であるはずだ。だがその二人はキャッシュ、ディスペンサーのコーナーに行き、銀行員がなにやら説明をしている様子である。そしてその初老の女性は、自分が持っていた紙の袋の中に、何かを詰め込み始めた。

 その時である、私の後ろで突然大きな音がした。
「ギギッ」と鳴る音は何だろう。と思い振り返ると、シャッターが閉まって行く場所に、誰かが、花瓶を置いた机を移動させているから、閉まり出したシャッターがそれを押し潰そうとしている音であった。

 私は直ぐにその事を理解したが、何人かの男性銀行員が集まってきた。それはそうだ。それが何かの合図で、何かの事件が始まるかもしれない。大金を扱っているから普段からそんな事が心の隅に有るはずであった。だがそれをきっかけにして事件は起こらなかった。

 ただ、その中の男性銀行員の1人があせって、かなりの勢いをつけて、私にぶつかってきた。その弾みで後ろにかなりよろけ、誰かにぶつかってしまった。その相手は、自分が持っていた袋を、床に落としてしまった。

 その誰かは、私の相手をしてくれるはずの女性銀行員であった。先ほどの初老の女性と一緒に歩いていて、本来はその初老の女性の持ち物である袋を、その銀行員が持って何かの説明をしていたのであった。その初老の女性は普段、両替をした事がないので、銀行員に頼んで両替をしてもらい、その行員は両替機の説明をしていた。と感じた。

 だが大変なのはこれからでその袋のなかには小銭が入っていた。その袋の中の小銭が当たり一面に散らかってしまった。先ほど私にぶつかった男性行員が一番慌てていた。

 彼は出世が、出来ないタイプで有る。地面に這い蹲る様にして、その小銭を集めだした。だが、私の相手をしてくれるはずの女性銀行員は、さっと自分の机からカウンター越しに下敷きを2枚取り出し、その2枚をうまく使い、散らばっていた小銭をかき集めだした。

 下手に触って金額が足りない時に、嫌な思いをするのは嫌だから、私は知らない顔をして見ていた。

 それは正解で有った。他に残っていた人も誰も手伝う事をしなかったからだ。その事件のおかげで私の大事な時間がさらに5分ほど無くなってしまった。だが私が考えていた通りに、その女性銀行員が私の用件を聞いてくれたのは偶然だろうか。私は、ついでに融資の件も聞いておいた。

 銀行からの帰り道に、大友の事を思い出した。奴は、あれから何も言って来ない。さっきの
「猫に賭けてみた」の賭けと言う字と加計という字の勘ちがいを思い出したからだ。確か、
「年末までに話しを持って行く」

 と言っていた様な記憶が有るのだが。

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