小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No41】

著者 【 末森拓夢 】


 その日の夕方である、開店直前に裏口から警官が尋ねてきた。別に警官をなんとも思わないが、こうして訪問されると、ドキッ。として、気が引き締まる思いが有る。

 その警官は
「昨夜11時前、目の前のコンビニに強盗が押し入りまして。ひょっとしてその事で気が付いた事とか、防犯テレビやビデオ等があればと思いまして」
「店に防犯テレビもビデオもありません。その強盗は何時頃入ったのですか」
「昨夜の10時57分頃です。通報があったのがその時間ですから、その5分か10分前位には、この辺りをうろついていた事になります」
「11時ですか」

 警官というのは職務に忠実である。警官が言った事を聞き返しても、何も言わずに、きちんと言い返してくれるし、時間の表現もきちんとしている。
「いいえ、11時前です。10時30分頃から10時55分までの間に見掛けた人物と言う事になります」

 細かい事を言う警官だと思ったが、それは仕事だから仕方がない事である。それにそう言われれば、ちょっと気になる人物がいた。

 時折顔を見た事が有る男性で、耳と唇にピアスを着け、髪を少し染め、有名な芸能人に似た所が有る人物だ。昨夜確かにそのコンビニで本を立ち読みしていた。立ち読みをする人は必ず本を読む、読まない人は何か違う事を気にして本を読んでいる振りをしているだけだ。その男は本を読んでいなかった。

 店の暖簾はいつものように、堀口が仕舞ってくれて、そのコンビニのレジまでは角度的に見えないが、それでも店内の中が良く見えた。その男は何をする訳でもなくうろついて、本の売り場の前で本を手に取り、本を読んでいる振りをしていた。

 人待ちかな、と昨日は思ったが改めて思い出すとちょっと変な気もする。それを警官に話した。
「それは何時の事ですか。正確にお願いしますよ。大事な事だから」

 私は
「しまった」と思ったが、言い出した以上、そのことを話さないといけない。頭の中で計算した。彼らは残業がきっちり夜の10時で終わる。仕事場から歩いて3分、途中に信号機は無いから時間は変わらない。着替えはいつもしていない。いつも作業着で来ている。テレビの番組が始まって直ぐだから10時5分ごろには来ている筈で、そんな事を一生懸命考えていたが、簡単な事に気が付いた。レジである。店のレジを締めた時間は残っている。その時間だ。間違いなく私がレジを締める時に、その男を見掛けた。レジからだと、いつも立つ場所より、通りに近く、コンビニの中が良く見える。それでいつもよりも鮮明な記憶が残っているのだ。昨日のレジの記録を出してきて時間を見ると。10時48分と記録が残っていた。

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