その事とその理由を警官に伝えると、
「その人物の顔と、服装、それから何か特長など、覚えていますか」
「ええ、顔つきだけは覚えています。私の店にも来た事がありますから」
「それでどんな顔つきでしたか」
私は記憶の中の人物を、どんなに上手に話しても、それを相手の人が理解する事が出来ない。つまり伝える事の難しさを知っているので。
「えーっと、グループでいるじゃないですか。芸能人ですよ」
と話しだした私だが、警官というのはいつも犯人ばかりを追いかけているから、テレビを見る暇がないであろう。そう思った私は、
「署に帰ったら女性の警官がいると思いますから、その人に聞いてください」
と私は、有る芸能人の実名をその警官に言った。
「分かりました。ちょっと私では判らない人物なので署に帰って調べてみます。ご協力を有難う御座います。また何か伺う事が有るかと思いますので宜しく御願い致します。それから何か気が付いた事が有りましたらこちらの方に連絡をお願いします」
そう一気に話してチラシを手渡してくれた。彼はそのチラシを私にくれたのだが、直ぐに、わたしの手から奪い取り、
「あっ、と。自分の名前を書いておきますのでそのほうにお願いします」
そう言って、自分の名前を散らしに書き込んだ。
「屋敷幸一」どこかで見た記憶があった。がそれよりも防犯ビデオの有効性を考えていた。私も付けよう。
朝から雲ひとつ無い青空が広がっている。先日降った雪と、その時の寒波が嘘のように感じられる。今日は、今年最後の土曜日である。今日が終われば、残すは29日、30日、31日の3日間だ。
この辺りは昨日、御用納めが済んで人はいない。つまり暇である。それなのに、昨夜、探偵の大友清から携帯が有り、
「明日会いに行くから、何があっても店を開けておけ」
と言われた。なぜかは知らないが。詳しくは聞けなかった。ちょうど忙しい時間だからだ。いつも彼が携帯してくる時は間が悪い。だが来るのなら一応、店は開けておこうと思った。もともと開けておく気は無かったのだが、彼の携帯のおかげでもう一日開ける羽目になった。仕込みをしていないので入り口には張り紙をした。
「ラーメンの無いラーメン屋です。それでよかったらどうぞ」