小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No45】

著者 【 末森拓夢 】


 彼女はその番号を直接携帯に打ち込んでいるようだ。その時わたしの携帯がなった。この時間になるのはおかしい。私はカウンターの下の、部屋の鍵の横に掛けて有る自分の携帯を手にとった。ワン切りのそのコールが残した物は、誰かの携帯番号で有る。不思議そうな顔に気が付いたのか、
「こうすれば番号が間違い無い事、の証拠だし、私の番号をいちいち教える必要が無いでしょう」

 確かにそうである。その知識と若さに少し感心した。

 暫く彼女と話を続けていたが、彼女は自分の腕時計をチッラ、と見てから、
「そろそろ行かなくちゃ。それじゃいい年を迎えてください」

 彼女の話し方は、もう完全に広島弁であった。流石に広島出身である。その河野友美が出て行って、30秒もしないうちに、あきが来た。完璧なるニヤミスであった。私の心臓はいきなり全開で動き出した。その心臓がドキドキと音がしている。
「おはよう。今日はどうなの」

 何がどうなのかは知らない。思わず口から出た言葉であった。だれでもが経験した事のある雰囲気だろう。
「何あせっているの」

 とっさに私はビールを見せ、
「飲んでいるから」
「別に不思議では無いでしょう。あなたが飲んでいたからって」
「ああっ。でも一応私の店だから、その主が飲んでいたらまずかない」
「別に。私に感覚から言ったら不思議ではないわ」

 頭は真っ白であった。多分、今、河野友美とすれ違った、はずである。店から出て行った所を見ている、はずである。だがその事は知らないかのようにしゃべっている。

 だが気を許しているといきなり来る。間違いは無い。水沢あきは、私の気持ちを知っているのか、もしくは知らずかは、解らないが、話を続けた。
「冨雄はどうするの、今年の正月」
「まだ何も決めていない」
「それなら私と過ごそうよ。行く所ないし、親の所帰ってもあまり歓迎はしてくれないしね。ねぇ知ってる。水商売の女性って、正月は自殺する人が増えるの。みんなは、帰る所が有るから思わないだろうけど、帰るところが無い人は寂しさから…」
「あきには、田舎が有るでしょ。普段のあきらしくないよ」
「だから、正月は一緒に過ごそうね。と言っているの」
「そうか。そうしようかな。でも親の所に、正月くらいは帰ったほうが良いよ、俺も帰るつもりでいるし」

 何かあせる気持ちが有ると、会話が成り立っていないなと感じてしまった。話しを変えようと私は、わざとらしく彼女に聞こえるぎりぎりの声の大きさで、独り言を言った
「そろそろ大友が来る頃なんだけどな」

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