特に知りたい訳ではないが、一応知っておかないと何かの集まりで、私だけが知らないと、話が出来なくなってしまう。
「氷で出来た岩の隙間でテントを立てて、その中で縮こまるようにして座ったまま、凍死していたらしい」
「ふーん。三年も経つと、もうボロ布だろうね」
「いや、それがさ。井上を見つけた冒険家は、最初生きていると思って、慌てて無線を飛ばしたんだって。だけど、もう井上は凍えて死んでいるのに気が付いて、また慌てて無線を飛ばして来たんだって」
「えっ、どうして直ぐに気が付かなかったの」
「俺が関係者から聞いた話しだと、凍死って、かなり綺麗に遺体が残るから、直ぐには気が付かないらしいよ」
大友は、その後も色々な話題を私に向けてきた。だが、今日の私にとっては、彼が話す内容よりも気になることがあり、彼の話など、どうでも良い事であった。私は、適当に言葉を濁していた。
竹原は、スープが残ったどんぶりを手で持ち、三分の一ほど飲み込んで、
「ごちそうさん。金、置いていくぞ」
そう言って出て行った。
店内は、友人の大友だけになった。中学の同級生であり、それ以来の仲だ。気兼ねをする人はいなくなった。
私はこの店を始めた頃から外を見る習慣をつけた。今日も、いつも立っている場所から、暖簾の隙間から見える、反対側のコンビニを何気なしにながめていた。
厨房内で立つこの位置には私のこだわりがあった。スープの寸胴をちょうど真後ろに来るように置き、目の前に麺をゆでる為のなべ、右側に調理用のテーブルを置いた。
この位置に立つとテレビが頭の上に来るのだが、音声は聞こえた。そして客席の後ろ側に鏡を置き正反対に映る画面を見える様にしてあった。その場所から、行き来する人の顔が見える様に、暖簾を2枚仕立てにしてもらい、その間から見えるようにして有った。時計は大き目の物を用意して入り口の上に掛けたが、それが結構役に立つ事になった。コンビニが見えるのは偶然であったが、私にとっては大事な情報源となった。客席はカウンターのみで詰めれば13人座れた。ここに立っていれば、店内の状況や、店外の状況は、把握できることになる。何もしていないように見えるが、コンビニの人の込み具合や、人通りを観察していたのだ。