今日のあきは普段とは違い、カジュアルな感じの姿をしていた。かなり年季の入ったジーパンに、ショートブーツ、そのかなり履き潰した感じのブーツは、それなりにジーパンに似合っている。その上に紫のセーター、マフラーは赤だ。私が以前、
「赤色か、ピンク色の似合う女性が好き」
と言ったのを覚えているらしく、そのマフラーは良く見掛ける事が出来た。コートは、これもちょっと古い感じがするチェックの柄のダッフルコートだ。かなり古い物らしく、少しくすんだ感じがした。
ただその柄はどこかで見掛けた事が有るような気がしたが、あまり気には留めなかった。
普段見かける彼女は、仕事の後が多く、仕事着のままの事が多い。客商売をした後だから、結構きつい感じの服装である。そのあきが、そんなカジュアルな格好をしていると、不思議と新鮮な気がしてきて、また違った気分で話す事が出来た。
JRの可部線は確か1969年の開通である。もともと太田川の沿線の、木材を運ぶために作られたものらしいが、近年の過疎化で利用する人が減り、もう間も無く廃線になる運命が待っている。そんな可部線だから乗客は少ない。と思っていた。
その思いは間違いで、結構乗客はいる。広島駅から乗り込んだ私達であったが、立っていないといけない状態になった。思惑が外れた。私はその列車の中でゆっくりとビールを飲もうと思い、3本ほど買って、隠して持っていた。
もっとも隠しておいた。と思うのは私だけで皆同じように買って持っている。そんな事だから、私達はその列車を運行する運転士の部屋の後ろで、小さなマド越しに前を見ながら、列車が進行するのを黙って、そして小さくなって、たたずんでいる。
大人のくせして、変な格好の乗客が5人、立っている事になる。だがそんなことに気が付く人はいない。それだけは救いであった。
あきは、運転席に釘付けで、運転手の動きを観察している。それもそのはず、彼女は最近パソコンを買ったのだ。ただ単に、時代遅れになるのが嫌なのと、コマーシャルの影響だ。買った。は良いが、使い方を知らない。
と言うよりは、使う必要がない。だからゲームをしている。その中でも、
「電車でGO」が気に入っている。ちょっと時代遅れだ。ただその運転が問題で、いつでもアクセル全開なのだ。一応要所ではブレーキを掛けるのだが、それ以外は何時でもアクセルを全開にしている。その彼女が、
「ねぇ。見て、見て、この運転手。ちゃんと時刻を気にしているよ」
当たり前である。
「ねぇ。ねぇ。見て。ちゃんと線の所で列車が止まったよ」
ついには
「解った。解ったわ。例の
「キンコンキンコン」となる音。列車がポイントを通過しないといけない駅の時だけ鳴るのよ」
「ふーん。それでなんでその駅だけ鳴るの」
そう私が訪ねると、
「そこまでは解らない」
「それはATC。オートマチック…トレイン…コントロールの略だ。つまり列車が間違った走行をした時に、それを自動的に修正するもので、列車を制御する装置の事。その作動音が聞こえているからだよ」