実は気に掛かっている事が先ほどからあった。しかしその前に雪の方が気になった。
年も押し詰まり、今から商売人にとってはかきいれ時という時期に、広島でこれほど雪が降るのは珍しい。先ほどからNHKのアナウンサーが繰り返し放送で、怒鳴っていた。昨日、日本海側上空にあった低気圧が、以上な速さで勢力を伸ばし、今日、太平洋上に抜け、シベリアからの冷たい高気圧が朝鮮半島の南方海上上空に進んで来た事を。まるで明日の日本は、冷蔵庫の中の冷凍室に成るかのごとく、興奮してしゃべっていたが、どちらにせよ、今日、この天気は、少しだけ異状で有ることに、間違いは無かった。
店の暖簾の隙間から外を見ていると、上から下に降り続く雪が、流石に気になって外に出てみた。確かに大袈裟に言っているだけ有って、すでに2…3センチ積もっていた。通りの人影はまばらで、大きな通りの電停で、路面電車を待つ人が二人位見える程度だった。隣近所で飾って有るクリスマス用の飾り付けが、半分雪で覆われはじめ、電球がきらびやかに光る飾り付けより上側は、白と黒のモノトーンの世界が広がっていた。降りしきる雪を見上げながら、いつの間にかつぶやいていた。
「久しぶりだな、こんな風に見るの」
中学生の頃、雪が降ると自転車で走り回っていた。よく見ると雪は、最初いくつ物もの小さな点で、向かって来るのか遠ざかって行くのか、分からない。だが、その小さな点は、間違いなく少しずつ大きくなり、最後には大きなかたまりと成り、逃げ場の無い私の顔に向かって、ぶつかって来るのである。ペダルをこぐ足に力を入れ速度を上げると、雪は多く向かってきて、たいした雪でなくても、大雪が降っているように思えたものだった。見上げる雪はそれと同じように見え、砕け散る雪のかけらと、冷たさが格別だった。
ふと視線を大通りに戻すと、ひとつの人影がこちらの方に向かって歩いて来ていた。
右手に大きなスーツケースを持ち、左手で子どもを抱いたその人は、私のほうをチラッと見て、立ち止まり子どもに何か話しかけ、直ぐにまた歩き出した。私はもう一度空を見上げ天気が気になる振りをして、それからその人の方を見ながら自分の店に向かった。店から3メートル位の所で再び目が合った。
「すごい雪ですね。明朝の朝は、かなり積もりますね」
と私はその人に声をかけた。こんな時、天気の話題から入るのが良い結果を生む。
「ほんま、すごい雪ですわ、ねぇ。このままやったら凍えそうですね」