小説【ラーメン屋旅館 ――女心――】

小説著者 【 末森拓夢 】


 その人はクスッと笑って、関西系の方言が混じった言葉で、そう答えてくれた。

 その人は髪をショートにして、ストレートのジーパン、厚めの紫色のセーター、明るい色のチェックのダッフルコートを着ていた。そしてこの頃の若い子に漏れず、ブーツを履いていた。ただ、そのブーツがショートなのかロングなのかは分からなかった。そして淡いピンクのマフラーをしていて、頬の色に同化しているように感じられた。

 子どもは黒いズボンに、フードの付いた黄色のジャンパー、普通の運動靴を履いていたが、ひとつだけ気になる事があった。靴下を履いていなかった。子どもが抱きついた母の胸からフードの隙間を縫うようにしてこちらを見た。右手を首筋に、抱きつく様にしっかりまわし、左手は古ぼけた人形、たぶんテディベアであろう、しっかり握っていた。
「待ち合わせですか」

 と私は尋ねた。待ち合わせである筈は無かった。

 この人は今日の昼ごろから、この小さな通りを歩き回っていた。

 最初見かけたのは昼の2時前頃で、その時、雨が降るのに傘を差していないのが気になった。その次は夜も暮れた7時頃で、コンビニの中で時間をつぶしていた。そのあと私の店を覗き込みながら、何回か通り過ぎている。
「…まぁそんなところです」

 その人は少し考え私の店を覗き込みながら、答えた。
「どうせ寒いですから待ちませんか中で。見えるとおり暇ですから」
「しまった」少し変な話し方をした。これでは、上手に人を誘う事にならない。その時、私の後ろから、老人の声で、挨拶が聞こえた。
「こんばんは」

 振り返ると、立川ただしさんがこちらを向いて笑っていた。私はいつも立川さんのことを、
「爺さん」と呼んでいた。爺さんは、いつもどおりのオーソドックスな服装をしていた。白のセーターの下に青色系のチェックのシャツを着込み、胸元には細い金色の鎖を巻いていた。黒色系のスラックスに同じく黒色の靴、その靴はどちらかと言うとヘビーなタイプで今日の天気を考慮したものらしい。

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