小説【ラーメン屋旅館 ――女心――No10】

小説著者 【 末森拓夢 】


 と言いながらカウンターの上に静かに置いた。子供にはスープにねぎを散らしたものを出した。

 そもそも料理に使うスープは美味しいものが良い。当たり前だと思う。ではそのスープの元にする原料に、何を使うかと言うことだ。一般的には鶏ガラやトンコツといった、普通は捨ててしまう物を使う。言い換えると原価の安いものを使用する。さらに言うとなれば、売り物に成らない物を使うわけだ。そうしないと原価が合わないからだ。それよりもさらに美味しい物を作ろうとしたら捨てないもの、売り物に成るもの、言い換えると原価の高いもの、を使用してスープを作ることになる。

 その辺を最近、一番考えている事である
「悩む」と言う事は良い事で、誰ともその事で議論をした事は無いが、私の頭の中では色々なアイデアが出揃いつつあった。

 土鍋をコンロにかけて、いつものスープを入れ、その中に骨付きの鶏肉、ハマグリ、椎茸、少量の白菜、豆腐、白葱を入れ、少し煮込む、時間で言うと5分ぐらいである。

 その間にたれを作り、麺をなべに入れてゆがき、いつもより早めに上げ一旦冷水で冷ます。そこからは食事をする人の好みで、麺を土鍋に入れ煮込んで出すか、そのまま麺と土鍋は別に出して自分で煮込んで、頂いてもらう。そのように考えていた。爺さんとその人は世間話で盛り上がっている。どうやらその人は河野友美と言う名前で、子供は大樹という名前で有るらしい。大阪に出て行って4年経ち、久しぶりに広島に帰り、
「友人の家に泊まろうとしたが、いなかった」

 と言っているようだ。さらに爺さんは自分の名前と私の事を紹介していた。ところでこの爺さん、女性を見ると必ず嘘を付きだす。別に嘘を言う必要など無いと思うのだが、決まって、なにか変わった嘘を言い出す。多分彼の性分なのだろう。そして彼女に対しても何時ものように話し出した。
「河野さん。私は身寄りのない老人でな。78歳にもなると、誰も話しちゃくれん。昔はこう見えてもバリバリの営業をしていたんじゃが、会社を離れると見向きもしてくれない。子供はいたんじゃが、私を見捨てて東京に行って、手紙のひとつもくれんのじゃ。今思えば、世間というものは冷たいの」
「はぁ。そうなんですか。世間に吹く風が、冷たく感じられるんですね」

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